「主任……」
「……」
呼びかけても、主任は相変わらず黙々と歩き続けるだけで聞こえていない様子だった。
少し大通りの車が減った気がしたけど、きっと聞こえないだろう。
緊張でドクドクと脈打つ鼓動。喉が渇き、唾を飲み込んでから口を開いた。
「主任、好きです」
主任は無言だった。やっぱり聞こえてないらしい。
ホッとしたような、届いて欲しかったような。でも、これで良かったんだと胸を撫で下ろした。
だが。
「お前、この状況でそんなこと言うか」
「え……しゅ、主任!? 聞こえたんですか!?」
まさか! 今まで無反応だったのに!
途端に羞恥で身体が熱くなる。恥ずかしくてたまらない。
主任の頭をポコポコと殴る様に「降ろして」と叫ぶと、さすがに周りの視線も集まりだし、主任が参ったように身を屈めた。
「長瀬、落ち着けって」
私は地面に足が着くとすぐさま主任から身体を離した。
今にも駆け出してしまいたいが、ちゃんとフォローしておかないと。主任と気まずくなりたくない。
「お、落ち着いてます! 今の聞こえたなら忘れて下さい! 嘘ですから、何でもないですから!」
今が暗くて良かった。明るい所で見たら自分の顔は真っ赤だったと思う。
顔の前で必死に手を振って訂正をすると、主任は訝しげに顔をしかめた。
「嘘って……長瀬、さっきのは嘘なのか?」
どうしてそんな顔するの。
見たことも無い表情に胸がツキンと痛む。