「主任……こんなところ、誰かに見られたら誤解されますよ」


主任の背中をそっと押して降りようとする。だけど、足を主任に抱えられ、離れられない。


「その心配も今更だろ。店からずっと担いでたんだから。職場のヤツ、全員に見られてる。なんだ? 見られちゃまずい相手でもいるのか?」

「いえ、そんなんじゃ……でも、主任が」

「俺?」

「南さんに……」

「え? なんて?」


車が通り、声が小さくて聞こえなかったようだ。

主任が軽く振り返り、眉根を寄せた横顔が見えた。


「なんでも、ないです」

「は?」


耳を傾けるが、やっぱり聞こえていないようだ。


この横顔も、身体を預けた背中も、支えてくれている腕も。全部、私のものじゃない。本当は南さんを支えたいんだ。

主任を見ていると、首に回した手に力を込めそうになる。ギュッと抱きしめて離したくない。

だけど、ずっと想い続けても叶わない恋はある。だから、もう――。


雑踏にまぎれて……想いを吐き出してしまおうか。届かなくていい。伝わらなくていい。

……この恋を終わらせる。

気持ちを吐き出してしまえば、諦められそうな気がした。