「え、どうしてって……あっ」
「貸して。今日はいっぱい飲むんだから」
有希が持っていたビール瓶を奪い、自分のグラスに注いだ。既に酔っていた体へ、グビグビと飲みなれないビールを流し込む。
「ぷはっ」
グラス一杯飲んだだけで、頭が重くなり、視界が歪んだ。
「ちょっと……もう、やめなよ。主任に嫌われるよ」
有希が目の前にいる主任を気にしながら、耳打ちで注意してくれる。
だけど、その注意は無意味。
「嫌われるって……これ以上嫌われることないもん」
私は拗ねたように口を尖らせ、空けたばかりのグラスに再びビールを注いだ。そしてまたグビッと琥珀色の液体を飲み干す。
有希が止めようと手を伸ばしてきたがそれを跳ね除け、またもう一杯。
「……おい、長瀬」
ついには無視をしていた主任まで声を掛けて来た。
「放っておいてくらはいっ!」
呂律が回らない。身体が大きく円を描くように揺れ、視界がグラついた。大好きな主任が三人にも四人にも見える。
主任が二人いればいいのに。
そうしたら南さんとも分けられるし……あーでも、二倍怒られることになるんだ。
なんて、馬鹿なことを考えていたら意識がそこで途切れてしまった。