渡部主任と出会ったのは私が会社に入社し、営業所に配属された時。
整った顔立ちに、目を見張るほど高い腰とスマートな体型。洗練された佇まいに近寄りがたい雰囲気。
一目惚れだった。
元々惚れっぽいという自覚があった。だから気持ちは伝えずに、そのまま自分の中で想いが消えるまで待とうと思った。
だけど、仕事に向き合う姿勢やとても頼りになるところ、部下思いなところ、私には厳しいけどなんだかんだで面倒を見てくれるところ……
数えきれないほど、たくさんいいところを見つけてしまい、想いは消えるどころか募るばかりだった。
思い続けて3年。
もう他の人は考えられない。
「長瀬、手を止めるとは随分と余裕だな」
「……あ。」
主任に出会った時のことを思い出していると、ついポーッとしてしまっていた。
気付くと背後に主任が立っていた。
「す、すみません」
「いや、いつものことだから怒ってないよ」
口元に笑みを浮かべていた……が、目は笑っていない。怒ってはいないけど、呆れている。
主任の心境に気付き、肩を竦めた。
「で。そんな調子で今日の業務は終わるのか? 今日は残業できないんだぞ」
「え? そうなんですか?」
「……はぁー……もういい。お前は不参加で」
「え、ちょ……主任!」
何が“不参加”なのかわからず、主任を引き止めようとしたが。
「南さん、ちょっと」
主任が席へ戻るついでに南さんを呼んだ。
引き止めようとした私の手は、所在なさげに宙を彷徨って膝へ落ちた。
「やっぱり、お似合い」
つい恨めしそうに見てしまう。噛みしめた唇が痛い。
「でも、不参加って……何?」
「今日、今月異動してきた人の歓迎会でしょ」
私がポツリと呟くと、有希が教えてくれた。
「そっか。歓迎会!」
美味しいご飯が食べられるだろうか。それより、主任の近くに座れるだろうか。
主役の人達以外はくじ引きで決められる宴会の席。
主任の近くになったら、趣味を聞いて、休日は何してるか聞いて……好きなタイプの女性も聞けたらいいな。
沈んでいた気分がちょっぴり上昇。
私は残業しないためにも、仕事を頑張ることにした。