「これは明日の朝イチに欲しいから。今から取りかかってくれよ」

「……は、はいぃ」


普通の人なら一時間もかからずに終わる仕事。それを一日かけてやれ……って。
仕事は回してくれるけど、頼りにはされていないらしい。



「千穂、アンタってホント渡部主任を怒らせるのが上手いね」


隣で悲鳴をあげていた有希が耳打ちで話しかけてくる。

渡部主任は仕事に厳しいけど、あからさまに嫌味を言ったり、怒ったりするのは私に対してだけだった。

まぁ……仕事できないのが、私だけなのかもしれないけど。


「怒らせちゃったけど……でも、仕事回してくれたよ」

「いい性格してるわ、ホント」


書類を見せると、有希は息を吐きながら呆れたように頭を振った。


「しかもあれだけ冷たくされても、渡部主任のこと好きなんだもんね」

「ちょ、有希! それは言わないで!」


慌てて有希の口を塞ぐ。

他の人に聞かれてはたまらない。ましてや本人が近くにいるというのに。
チラリと主任の方を見たが、聞こえなかったのか平然とした顔で仕事をこなしていた。


……かっこいい。


思わず艶っぽいため息を吐いてしまう。

あれだけ馬鹿にされても、冷たくされてもこの想いが変わらないから困ったものだ。