「私……この仕事向いてないかも」
南さんに仕事を渡すと、途端に自分が無力な人間に思えた。
いくら5年先輩だとはいえ、この営業所での年数も、営業をしていた南さんより事務に携わっている年数は自分が長いはずだ。
それなのに南さんの方が頼りにされている。
まだ他の仕事があるというのに、落ち込んでしまいはかどらない。
「この仕事じゃなくて、長瀬はどの仕事もできないと思うけどな」
「しゅ、主任……!」
肩を落としていると、主任が歩み寄って来た。
あまりにも辛辣な言葉に泣きそうになってしまう。隣で聞いていた同僚の有希は、主任には聞こえない声で、「きっつー」と悲鳴をあげている。
「量は多いかもしれないが、入力すればいいだけだろう。こんな簡単な仕事は他にないね」
「……わかってます。すみません」
「それとももう少し仕事量を減らして欲しいか? 俺から仕事を回すのをやめようか」
「そ、それは困ります! やります、頑張りますから!」
主任から仕事を回してもらえなくなると、話す機会が減ってしまう。しかも信頼を取り戻す機会だって失われてしまう。
どれほどキツイことを言われても、それだけは避けたくて必死に食いついた。私のすがるような様子に、主任が眼鏡の奥の瞳を細める。
「やる気だけは大したもんだな。ほら、次の仕事だ」
「主任……!」
主任が書類を差し出してくる。
よかった! もう仕事を回してもらえないかと思った。
私が泣きそうになりながら、書類を受け取ると……。