「どうして朝イチの書類が11時になっても、まだできてないんだ」

「だから、データが消えてしまって。再度作り直してたら……」

「11時に欲しいから朝イチで頼んだのに。昨日から徹夜で作ってもらうんだったよ」


主任は眼鏡を外し、頭痛を堪えるようにこめかみを押さえた。

忙しい主任に、こんな顔をさせたいわけじゃないのに。


「すみません」

「もういい。南さん、変わりに作ってくれないか」


主任が今月異動してきたばかりの南さんを呼んだ。


「はい」


私の斜め前に座っていた南さんは席を立ち、主任の側へ向かう。

凛とした声に、黒髪のボブにスレンダーな体型。顔立ちの綺麗さも相まって、とても大人な女性に見える。


南さんは私より5つ上の30歳。今月移動でやってきたが、以前は本店で働いていて、バリバリと営業をこなしていたらしい。

今回営業所に移動してきたのは、主任と一緒でステップアップの一環だと言われている。

32歳の主任と並ぶと美男美女のお似合いカップルで、25歳の自分がなんだかお子ちゃまに思えて悲しくなった。


「でも私、途中までできて……」

「君の途中からと、南さんの最初からなら南さんの方が早いんだ」

「……はい」


自分が情けない。入社3年経ったというのに未だにミスが絶えず、仕事も遅いなんて。

だけど、これは今に始まったことではなく学生の時からこのトロさ。いい加減自分でも呆れてしまう。