「くわねぇの?」
「ん、食べるよ」
「冷めるから早く食え」
杏の分の卵焼きを一つつまんで杏の口に突っこんだ。
黙って口を動かす杏。
「うまいだろ?」
「おいしいけど…元々どういう食べ物なのか知らないからね」
「あ、そっか…」
こいつ卵焼きも知らずに生きてきたんだ。
「杏、今まで何食ってたの?」
「バイト先でもらったパン」
「……だけ?」
「うん」
バイト先でもらえるパンの量なんて、たかが知れてる。
「…何日食わなかったのが続いた?」
「最高は3日かな…我慢できなくて、近所の柿の実を食べて怒られた」
懐かしいなと言わんばかりの顔をしてる杏。
……よく施設に連れて行かれなかったもんだな。
「あの人は私をお金稼ぎの道具としか見てないから…どんな姿になろうと関係ないの」
苦笑いをする杏は箸を持って飯を食う。
おいしいねって。