「事件、ねぇ・・・・」

彼 龍崎ヒロキは 私の持ってきた書類を見て
そう呟いた。

「んで、俺がこの仕事をするのか?」

「はい、そうですよ」

私はできるだけはにかんだ。

・・・・といっても、はにかめる内容ではないのだが。

「佐久間氏殺人事件・・・・ 俺はこの手の
 処理係を希望したわけじゃないんだが。」

「仕方ないですよ。 本部からの御指名なんですから。
 そんなこと言ってないで、早く調査しないと」

私の前にたたずむ
ソファにもたれている男は  龍崎ヒロキ。
違法売春及びそれに類した殺人事件担当の取締・刑事だ。

「佐渡事務所」 に所属している。

「あぁー・・・めんどくせぇ」

ヒロキは書類を投げ出した。

「こんなんやってらんねえよ・・・バンドいくべバンド」

ヒロキはそう言うと、そばにあったギターケースを持って
立ち上がった。

「もう!そんな事でいいと思ってるんですか?
もうちょっと真面目にしてください。」

私はそう言ってあきれた。

確かに この類の仕事は彼の希望したものじゃない。

本部の「人数不足」という理由だった。

しかし、事件が起きたからには ぐずってはいられない。

「だったら 今日はひとまず私がやっておきます。
 ・・・・でも 他はやってくださいね?」

私は仕方なくそう言った。


「・・・・・」 彼は振り返ると

「ん、ありがと。 大好き」

と、 無表情のまま言った。

「龍崎さん・・・・」

私は 口をヘの字にして 返す。


「心にもない事を無表情で言うの、やめてください」

「ちゃんと分かってるじゃん。お前はそこまで阿呆じゃなかったんだな。」

と 得意げに耳にあるピアスをいじってそう言うと

「じゃ といことで」 と 事務所を出て行った。

パタン・・・・

「なんか鼻につく言い方。」
広恵は呟く。

「あれ・・・・龍崎さん、ギター忘れてる・・・」


一方。

当のヒロキは 警察署へ調査へと向かっていた。