「じゃあ俺、花が待ってるからここで帰るね」
「あ、うん……」
いつものようにニコニコと笑顔を振りまいて、弘也君は満足そうに帰っていった。
えっ……?
さ、さっきの何……?
っていうか!さっきついつい固まってしまったけど、あたし抱きしめられてたよねっ!?
な、何でっ!?
――グイッ
「うわっ!!」
腕の次は、肩を強く掴まれる。
なんか今日はよく引っ張られる一日だな~~
って、そうじゃなくてっ!!
「な、何でいるのっ!?」
あたしの肩から手を下ろして、同時に冷たい目であたしを見下ろすその人物。
い、いつもより迫力が……
「何でなんて、白々しい」
「え?」
いつものあの不機嫌そうな瞳で、冷たい口調の……一ノ宮君。
「弘也からここにお前を迎えに来いってメールが来たんだよ」
ひ、弘也君っ!!
なんでわざわざ一ノ宮君を!!
「そんなイヤそうな顔するなよ」
「え?」
イヤそうな顔って……?
「こっちだって来たくてきたわけじゃねぇよ」
「っ……」
そんなこと一々言わなくても分かってるよ……
「しかもあんなもん見せられるこっちの身にもなれよ」
「あんなもんって……あっ!」
もしかしてさっきの……見られてた!?
「弘也とイチャイチャするのは構わないけど」
「イチャイチャなんてっ……」
「俺と家族になるんだから、公衆の面前はやめろよな。迷惑だ」
「っ……」
『迷惑だ』
たったその一言が、あたしの心に重くのしかかった。
やっぱり弘也君の勘は外れそうだよ。
だって、あたしがどれだけ気持ちが変わらなくても……
どれだけ傷ついても……
――一ノ宮君は全くあたしに興味がないんだから……
『用事が出来たから、玲が5時に駅前に未来ちゃんを迎えに来てあげて!』
そんなメールが届いたのは、約5分前。
なんで俺が?
『無理』
リビングのソファーに座りながらそう返すと、素早くまたメールが来る。
『女の子を一人で返していいの?』
っ……
別に未来なんて一人で帰っても大丈夫だろ。
あんなチンチクリン、誰も襲う気起きないだろうし……
「未来ちゃんは何時に帰ってくるんだ?」
「さあ?何時でしょうね」
「最近は物騒な世の中だからな……」
「ええ、そうね」
「っ……だからそろそろ未来ちゃんに帰って来るように……」
「勇吾さん、さっきも言いましたけど、大丈夫ですよ。きっとお相手の男の子が送ってくれるでしょうし」
「うっ……」
30分前からずっとリビングのテーブルで同じ会話をしている両親。
父さんは未来のことが気になって仕方ないようだ。
さっきから祥子さんが宥めることを繰り返している。
「そ、そうだよな……。でも一応何時頃に帰って来るかだけでも……」
父さん……
まさかあなたがこんな親バカなんて知りませんでしたよ……
まぁ、でも祥子さんの読みは外れて、未来は一人で帰って来ますよ。
弘也からのメール通りなら。
「そ、そうだっ!玲っ!せっかくだから未来ちゃんを迎えに行ってやりなさい」
「え……?」
突然の申し出に、少し間抜けな声が出た。
「もうっ!!勇吾さんっ!!せっかくの休日なのに、玲君に悪いでしょ!?」
父さんを叱りながら、俺に少し微笑んだ祥子さん。
「いや、しかしだな……」
「いいですよ」
「「え?」」
「迎えに行きますよ」
ここではそう言うしかないだろ。
じゃないとこの会話が永遠に繰り返されそうだし……
「そうかそうかっ!やっぱり玲も未来ちゃんのことが心配なんだなっ!!」
「なっ!!」
『心配』と言われて、ついソファーから立ち上がる。
心配とかそんなんじゃ……
「それにしてもみーちゃんも幸せね」
「え?」
「こんな心配してくれるお兄ちゃんが居るんですから」
「あっ……」
そうだ。
何を焦っているんだ、俺は……
父さんが言った『心配』と言ったのは、『妹』の未来に対して……
冷静になれば……
いや、普通にそう思うところだろ……
なのに、俺はバカみたいに取り乱して……
「未来ちゃんのことは任せてください。大事な妹なので……」
そうだ。
これが正解だ。
『妹』の未来を心配するのは『兄』として普通のこと。
なのに何動揺してんだよ……俺は……
「じゃあ未来ちゃんに連絡しておきますね」
「えぇ、よろしくね」
「はい」
連絡なんてしなくても、弘也がきっと未来に伝えている。
そう分かっているのに、ここには居づらくて、リビングを出た。
――――――――――……
はぁ―……少し早く着すぎたか……?
駅前の時計台はまだ4時40分を示している。
適当に座って待っとくか。
時計台の下にある、駅が見える位置のベンチに座り、空を見上げる。
もう夕日が出てきて来ていて、少し肌寒い。
つーかさっさと来いよ。
なんで俺があいつらの為に待たされないといけないわけ?
少しイラッとしながら、空から駅へと視線を戻した。
あっ……
やっと来た。
なぜか疲れたような表情をした未来と、満足そうな顔をしてる弘也。
あの温度差はなんだ……?
少しそのまま様子を疑う。
すると楽しそうに笑い合う2人。
――イラッ
何だよ。俺を待たしておきながら……
って俺も俺でさっさとあいつらに声をかければいいだろ。
何様子なんて伺ってるんだよ。
ベンチから立ち上がって、弘也たちの元に向かった。
「ひろ……っ……」
『弘也!』と呼ぼうとしたその声は、自然とその光景を見て止まった。
そしてその光景に俺の目は囚われた。
っ……
なんで2人が抱き合ってる……?
未来もおとなしく弘也の胸に体を預けている。