*美咲*


「いってきまーす」

「待って美咲!忘れ物。」
そう言ってお母さんはわたしに水筒を渡す。
「あぁ!これがないと死んじゃう~」
そう言って慌ただしく家を出た。



山本美咲。


少し前に中学2年生になった、
ごく普通の名前の、ごく普通の中学生。


ただ、みんなとちょっと違うのが
今まで一度も、ちゃんと「恋」をしたことがない。


人を好きになることが分からない。




もしかしたら、恋をしたこともあるかもしれない。
でも、自覚したことは一度もなかった。