「さっきの話の続きだけど、タキのこと考えてたの?」
「……うん」

 私はそっと息を吐いた。

「今日、仕事場で思い知っちゃって……」

 私は、話しながら自分の眉尻が下がったのを自覚した。きっと、情けない顔をしているんだろう。

「私が前に進めていないせいで、他の人達に迷惑をかけてるって」

 私の心の、ひどく錆び付いた秒針。それに、油を差す方法がわからない。

「あきのこと、忘れないと……前には進めないのかな」

 本当は、私だって前に進みたい。だけど、あきのことを忘れたくない。あきのことを、一生想っていたいの。

「あきのこと忘れなきゃいけないくらいなら、私、前に進めなくて良い。だけど、このままだと他の人に迷惑がかかっちゃう……」

 私の独り言のような言葉を、ヒロは静かに聞いてくれた。

「前にも言ったけど、タキのことを忘れるなんて至難の業だ」
「……ヒロ……」

 ヒロは笑って、

「前に進むのに、タキのことを忘れる必要なんてない。そうは思わないか?」

 そう言った。その言葉に、私は少し考える。

 笑顔を見せていたおばさんも、明菜ちゃんも、あきのことを忘れたわけじゃないだろう。当たり前だ。それでも、前をしっかりと見ていた。

「……忘れなくていいの?」
「むしろ、忘れたら、タキ悲しむだろうよ」

 私はうつむいた。

「でも、私が前に進めなかったら、あきは自分を責めるかもしれない……」

 私が前に進めていないせいで、死んでしまったあきをさらに苦しめているのかもしれない。

「それなら、少しずつ前を向く練習をすればいい」
「練習?」

 私は首をかしげてヒロを見た。おどけたような口調とは裏腹に、ヒロはひどく真剣な顔をしていた。