「ごめん、そういうんじゃなくて、なんか、ね!」
「意外。姫木ちゃんが、ロックアーティストと付き合ってるなんて……」

 先輩の言葉に、あきが笑った。

「あれ、意外とか思われてるけど、真子は昔からバンドの追っかけしてたよな。出待ちとか、コアなファンの証だもんな」
「先輩、私、高校生のときからインディーズバンドとか好きだったんですよ」
「へええええ! やっぱり意外」

 そんなに、意外かな?

「姫木ちゃん、凄く大人しい感じだから。バンドとかって、ライヴで頭とか振っちゃう感じなんでしょ?」
「確かにそういう人もいますけど、私は……」
「俺らのバンドはそういう曲色でもないしな」

 あきも笑う。先輩は顔を輝かせて、

「TAKIさん、私、この前の新曲買いましたよ! 良かったです」
「本当? ありがとう」

 そう言った。そして、はっと何かを思い出したように、私を意味ありげに見た。

「姫木ちゃん、今日仕事で失敗しちゃったんですよ。落ち込んでるみたいだから、慰めてあげてくださいね」
「ちょっと、先輩っ」
「それじゃあ、私は、お邪魔のようだから。姫木ちゃん、また明日」

 そう言って、先輩は去っていった。

「面白い人だな、真子の先輩」
「うん、いつも助けてくれるの」

 私はあきの差し出された左手を握った。そしてアパートに向かって並んで歩き出す。

「失敗したんだって?」

 あきの耳に心地よい、優しい声が私に語りかける。