side 綾香


サワサワ    サワサワ


桜の木が、音を立てて揺れる。

「お母さんっ!早く早く~」
私は、坂を下りながら後ろを振り返り叫ぶ。
木々の間から、
キラキラと光が差し込む。
「綾香、こけるわよ!」
心配そうなお母さんの顔。
今は、それさえも
耳に入らないくらい・・・。
私は、坂を駆け下りる。
そしてお約束・・・

ビタッ!!

「きゃっ、いったぁーい・・・。」
足がもつれて地面にダイブ。
お母さんは、まだずーっと向こう。

はぁ・・・信じられない。

まだ起きれずにいると、

「クスクス」

うっ、周りの視線が・・・。
恥ずかしいー。
もぅ、消えてしまいたい。

「大丈夫?」
と、手を差し伸べてくれた男の人が。
やっ優しい、いい人だぁ~。
私は、半泣きで立つ。

「あっ、大丈夫・・・です。」
うつむき、照れながら言う私に
そっとさしだしてくれたハンカチ。
「これ、つかいなよ。」
「ありがとうございます。」
私は、ハンカチを握り締めて微笑む。

「じゃあばいばい、おちびちゃん。」
私は、身長がちっちゃかったので
言われて当たり前だったけど、
まさか、初対面の人に言われるとは・・・。
あっそういえばハンカチ・・・。

そう思った頃には、
もうあの人はもう坂を下りきっている。

あっ、同じカバンだ・・・。
同じ学校かぁ。
背、高かったな。
三年生かな・・・?

そんなことを考えていると後ろから、
「綾香?どうしたの?」
心配そうな顔で見つめるお母さん。
「あ・・・、こけちゃった。」
ため息をつくお母さん。
「あんた今日入学式でしょ。」
そう、入学式だ。
「うん・・・。」
「服汚したらどうするのよもう。」
そういって歩くお母さん。
その隣を歩く私。
すると、私が持っているハンカチに気づいたのか
「そんなハンカチもってた?」
「ううん、ちょっと・・・ね♪」