「いずみさん!!」

振り返ると、病院の白い壁に寄りかかるように、月野いずみさんが立っていた。

黒の服に身を包んだいずみさんのよく通る声が、わたしの心を突き刺すように次の言葉を続ける。

「長い間、肉体と精神を引き離され、精神の自由もままならない状態にいる加奈の体はもう限界よ。加奈の女神としての強い魂が滅びることはまずないけれど、肉体はそうはいかない。早く加奈をミラージュムーンから取り戻さなければ、加奈の命はないわ」

「いずみ…さん」

きっぱりと、冷たく言い放ったいずみさんの言葉に、わたしは気を失いそうにショックを受けた。

唇を震わせて泣くわたしをセイジュが苦しげに見つめた。

「君のママを月にさらったのも、ファントムの奴らに彼女を奪われたのも、全部オレの責任だ。オレがミラージュムーンに行き、彼女を連れ戻してくるよ」

「…セイジュ……」

コツン、といずみさんがわたしたちに近づく靴音が響いた。

「セイジュ、あなたは『月の一族』でしょう?なら、孤独に闘う必要はないわ。本当の戦士である『闇の天使』とは違う。あなたには、仲間がいる。そして、あなたにはガードとして護るべき『女神』がいる。あなたがまだガードを持たない彼女の第一のガードになるべきだわ。……あなたの女神が誰なのか、わかるわよね?」

いずみさんはそう言って、胸に光る三日月のペンダントに愛おしげに触れた。

……なにか、想い出の人を抱きしめるように。