―じめじめとした梅雨の季節がやってきた。


この季節はテニスができない日が多い。

サークル活動ができない日も4人で集まってお喋りを楽しんでいた。

この頃には自然と呼び捨てで呼び合うようになっていた。


「アキトって彼女おらんの?」
ユイが聞いた。

あの日以来、ユイとヒカルは気を利かせて、アキトのことを聞いてくれるようになった。

「おらんでー。」

ハルの顔は天気とは裏腹にパッと明るくなった。

「どんな人がタイプなん?」
ヒカルが続けて聞く。

「ん~、ずっと側にいてくれる人。」

そのあとも2人からのアキトへの質問は止まらなかった。

お陰でアキトのことが大体解ってきた。
アキトは、高校は東大合格者が数十名出るほどの公立の進学校に通っていて、そこでもトップだったこと。
周りからは東大に行くことを勧められたが、祖母の家が近い大学に進学しようと決めていたこと。
高校生のときに年上の彼女がいたこと…。

しかし、私は前から気になっていることが1つだけあった。
それは…
アキトが笑わないこと。
私の気のせいかもしれないけど、アキトはどこか無理をしているように見えた。
アキトはよく笑うけど、本当に笑っていないように思えた。


『側にいてくれれば良い』

この言葉には深い意味が隠されていたのだ。