夜。
空に浮かぶ雲は途切れていて
その隙間から月が顔を覗かせている。
窓から差し込む月明かり。
こんなにも綺麗と思ったのはアイツがいた頃以来かと、
1人苦笑する。
満月に照らされて妖しい輝きを放ちながらも
その美しさは止まらせることは無い桜。
アイツと同じ名前の花、桜。
俺が変われたのもアイツがいたから
いや、こんな変な時代に迷い込んできた
1人の人間の女。
俺は鬼だから人間とは結ばれる事は無くて
全てに怒りを感じ、絶望と暗闇の中にいた俺を
アイツはそこから出してくれた。
あの優しい笑顔で。
今もアイツはその笑顔を誰かに向けているのか。
アイツの中で俺という存在はまだ残っているのか。
『会いてぇよ、桜』
口から出た言葉は風によってかき消される。
同時に桜の花びらが散った。
もし、ここにアイツがいたら・・・
俺は嬉しいんだろうな。
窓枠にもたれてそのまま目を閉じた。