篤人さんは切ない顔で笑った。
『凌央は…何で里衣と別れた?』
真剣な目で聞いてくる篤人さん。
篤人さんなら、言っても平気かなと思った。
『里衣が事故ったのは知ってますよね?
なんとか命は助かって、目が覚めてからも体に何も異常はありませんでした。
でも、俺の記憶だけを失ったんです』
篤人さんが息を呑む音が聞こえた。
『凌央のこと…だけって』
『でも、どっかで自信があったんです。
記憶を失っても、またすぐに前みたいな関係になれるだろうって。
でも、ダメでした。
俺の無力さじゃ何もできなくて…。
里衣を傷つけるだけで…。
それで別れました。
もう、里衣を苦しめたくなくて…。
でも、そんなのも口実なのかもしれないっす。
自分が傷つきたくないだけなのかもしれません』