黒の人から四段ばかり上の場所、振り替えれば、甲羅に入った亀のような下を向いて小さくなっている頭を見た。


「……」


何が渉をそうさせたのかは分からなかった。


「かーごめかーごめ、かーごの中のとりぃはー」


耳を済ませば聞こえてきたその歌。黒の人が繰り返しに口ずさむのは、そんな童謡だった。


まったりとのんびりと低い声で囁くように、黒の人の旋律に耳を傾けながら、渉は唾を飲んだ。


登りの足を下りに。右足を一段だけ下げて、体を黒の人に向けたまま。


「風邪を、引きますよ」


恐らくは、四年ぶりにかけた言葉。


挨拶ではない、十三歳のあの日、『この人と話すことは無理だ』と知ったときからかけられずにいた言葉だった。