「よ……に……つ……った」


繭籠りのように、腰を曲げて体を縮ませて、姿勢を崩さずそのまま。


「……ろの……れぇ」


ひたすらに何かを呟く。


渉にはソレが何をしているか分かっていた。


繭ではなく揺りかご。体を僅かに揺らして、子が寒くないように自身の体を覆い被せて、あやすために歌っていただけの“母親だった”。


「こんばんは」


その黒の人とすれ違いざまに渉は頭を下げつつ、挨拶をした。


日課と言っていい行為。何せこの人は、夜になる度にここにいる。


何時から何時までとは言えない。その日にとってまちまちだが、夜になるといるのはずっと変わらない。


――十四歳のあの時から。


「……」


いつもなら挨拶して通り過ぎる渉だったが、足を止めてしまった。