郷は優しい。

口は少し悪いし、大胆で少し強引だけど、本当はすごく優しい。


でも優しい分、あたしは一線を越えられない。


優しい郷を失いたくない。

この居心地の良いままでいたい。


あたしはワガママだ。



郷に向けられた呆れた笑みは本当は自分に対してのものだったのかもしれない。



「なんだよ、それ。俺は玲子のこと好きだからこうすんのに。」


玲子は少し戸惑ったように郷を見る。


郷は少し切なさそうに普段と違った真剣な顔をしていた。



「なーんてな!俺らしくねぇ!俺がこうしたいんだから好きにさせてもらう!」


郷はいつものように豪快な笑顔で更に抱きしめる力を強めた。



「本当自分勝手。」


玲子は呆れて言う。


「言ってろ。」


郷は気にした素振りも見せずに言う。


違うよ。


郷。


自分勝手なのは郷じゃない。



あたしのほうなんだ。



自分のことしか考えられない。


自分の幸せしか考えられないの。


あたしが一番自分勝手なんだ。



だけど、そんなこと言えるわけなくてあたしは郷の腕に包まれている温かさに溺れていく。