今となっては複雑なところだが、当時の俺は幸福の中にいた。


初めて人を好きになった。


それも、強い運命を感じるような、深い深い出逢いだった。


ただ、好きでいられればそれでいい。


たまに逢えたら、その日は幸福。


中学の頃の俺はまだ知らなかったんだ。


好きでいるということだけが、どれだけつらいかなんて。


 役について初めての学年会議。


一つの教室に集まった全クラスの委員長と副委員長。


見知った顔は一人もおらず、副委員長となった橋田さんと二人で窓際の席に座った。


橋田さんは以前に俺に告白をしてきたギャルの一人だったが、メンタル面は今までに会った女性でダントツに強く、副委員長に自ら手を上げていたのを見ると、まだ彼女の俺への想いは砕けてはいないようだった。


「ねえー慶介。今度美奈子に告られるかもよ?」


舌に蜂蜜でも塗りたくっているんじゃないかというくらいの、甘ったるく、のろのろとした口調で橋田さんは言った。


「山岡さんが?」


「うん」


「まさか」


そう言いながら、胸の内ではため息をついた。


十二分にありえた話だった。