ただ、その時と遥かに違うことはあった。
母は母性だか女性のしたたかさだか、何だかよくわからない笑みを浮かべて俺の前からスッと姿を消したのだが、瀬川さんの場合は明らかに「やってしまった!」というばつの悪そうな表情を俺に残して、走り去って行った。
どちらも後味のいいことなど一つもないのだけど、事の深刻さがまるで違う。
母親にエロ本が見つかろうが、そんなのはただ羞恥心のみが生まれ、それだけで終わる。(それでも苦しいことこの上ないが)
でも、瀬川さんにこの場を見られた状況では、そんな明確な感情さえ見当たらない。
漠然とした不安だけが胸の中を漂っていて、俺からまばたきという機能を奪う。
俺は瀬川さんに、他の女子と一緒にいるところさえ見られたくないのだ。
ましてや告白されているところなんてありえない。
瀬川さんが来るなんて知っていたら、俺は吉澤を担いでどこかへ逃げていたに違いない。
なのに彼女は見てしまった。
今日に限って。
吉澤は瀬川さんの友達なのに。
よりによって今日だ。
俺の単細胞な頭がようやく回転を始める。