いや、俺じゃない。


未だに泣き止まない吉澤でもない。


声は吉澤の後ろから聞こえた。


彼女の背後には古い鉄の棒が、古いアーケードを支える、今にも崩壊しそうな渡り廊下があった。


新校舎と旧校舎を繋ぐ唯一の道なのだが、旧校舎はまもなく取り壊しが始まる為、普段は誰も通らない。


それゆえに、この新校舎と旧校舎の間の空間は、絶好の告白スポットであったり、絶好のサボリスペースだったりするのだ。


月に2回はここに訪れる(連れてこられる)俺は、それなりにここの人気のなさを知っていたし、知らなかったとしてもきっとこんな予想はしなかっただろう。


告白されて、フって、相手に泣かれているその瞬間を誰かに見られるなんて。


そしてその誰かが瀬川さんになるだなんて。


瀬川さんだって、まさかこんな場面に遭遇するだなんて思っていなかっただろう。


だから彼女は思わず声を漏らした。


そんな彼女と目が合った瞬間、俺の身体は一瞬、生命維持の活動をやめた。


昔に、兄に初めてエロ本をもらって、興味本位で表紙をめくった瞬間、母親が部屋に入ってきた時の、あの感覚とまるで同じだった。