ナレーション変わりまして、皆さん始めまして。
たった今失恋した、俺、伊井川流樹。独身、無職、貧乏、今時何処にでも居る、いわゆる"負け犬"と言う奴だ。
実家は割と…いや、かなり裕福なのだが、七光りと呼ばれることから逃げて逃げて、逃げまくった結果が今のこの状態だ。
一言言ってしまえば、新居はもちろん、毎日の食事や身の回りの世話まで、全てにおいて保証が付いてしまうのだが、両親に頼るようなことだけは、絶対にしたくなかった。 ここまで来て、今更それをしてしまえば、それこそ本物の"負け犬"になってしまうと、俺が思うからだ。
ただ逃げているだけだというのは、言われなくても自分で理解しているつもりだが、人には絶対に譲れないものが1つや2つはあるものだ。
そんな"負け犬"である俺にとって、唯一の心の支えは、恋人である亜魅の存在だった。
しかしたった今、俺はそれすらも失ってしまった。
「くそっ。」
舌打ちをしてから、いつの間にか歩き着いていたらしい河川敷で、仰向けに寝転がった。
雲1つない、綺麗な青空だった。
心地良い風に頬を撫でられながら、俺は深い眠りに落ちた。
───何処か知らない世界で、1からやり直してェな…。
そんなことを考えながら。