あの時は家の中も事務所も組員の死体で溢れていた。
どうすることも出来ず、何もできないアタシは仁に頼んだ。
『行く所なんてない。アタシも連れて行って』
きっとその時から仁に惹かれていたのだろう。
今思えば、突拍子もないことを言ったものだ。
『好きにするといい』
素っ気なく言った仁は、アタシをアジトに連れて行った。
そこは仁と同じ組織に属する暗殺者が集まるお店。
一般の客もいたが、だいたい仁の仲間がいつも誰かいて、相手をしてくれる。
当時アタシは14歳。
ショートカットで細身だったため、少年と思われていた。
それはアタシにとって都合が良かったようだ。
仁が仕事に出ている間は店で働く。
接近や酒の作り方、酔っ払いのあしらいを覚えた。
『アタシも仁と同じになりたい』
仁に我が儘を言った日からは、家に帰るとナイフや銃の扱い方を学んだ。
そんな生活が何年か経ち、アタシは一人前の相棒になった。
組織にはアタシ以外に女は1人しかいない。
この暗殺組織のボスだ。
初めて会った時のボスの言葉を思い出す。
『可哀想な子……』
今なら理解できる。
だけどあの時のアタシは子供で無知で純粋だったのだ。
19歳になったアタシは周りが驚くほどに女になっていた。
組織の仲間からの扱いは少年に対するものから異性に対するものへと変わる。
仁だけは変わらなかった。
皆がアタシを名前で呼び、口説く。
『名前で呼んでよ』
頼んでも、仁だけはアタシを名前で呼ばない。
そして絶対に口説かない。
『お前がNo.1になったらな』
冷たい……。
だけどアタシが欲しいのは仁だけだ。
アタシはNo.1になるためにどんな依頼も受けた。
暗殺者としての毎日。
殺して、殺して、殺し続ける。
暫くして、アタシは組織で1番の暗殺者になった。
――やっと望みが叶う。