「ねぇサヤ子、言わなきゃ分かんない。何が気に入らないの??」

 『こっち向け』とサヤ子の顔を両手で挟んで無理矢理俺の方を向かせると、サヤ子は視線を反らせたまま口を開いた。

  「・・・私は『関係のない人』ですが、桜井先生は関係あるから、桜井先生にはさっきの返答した方がいいと思います」

 サヤ子が自分の顔から俺の手を剥がそうとした。

 「・・・さっきのって??」

 サヤ子の顔をガッチリ掴んだまま聞き返す。

  「・・・キスして泣いた理由」

 サヤ子がポツリと呟くように零した。

 「色んな気持ちが混ざってた。ハッキリした理由は自分でも分からない」

  本当にそうなんだ。

 泣いた事に自分も驚いてたくらいだし。

  「・・・色んな気持ち??」

 サヤ子がやっと俺と視線を合わせた。

 サヤ子の黒目が左右に揺れ、目に貯まる涙を目尻から押し出さんばかりだった。