真っ赤な顔で薄ら涙を滲ませたサヤ子は、怒っているのか哀しんでいるのか分からない。イヤ、どっちもか。

 「サヤ子。言っとくけど、サヤ子と付き合う前の話だから」

 「そこじゃねぇし」

 俺の弁解にすかさず安田が突っ込んだ。

 分かってるし。前置きしないと更に誤解されるだろうが。

 「別れ話してて・・・」

 「別れ話でキスすんの??」

 安田、ツッコミすぎ。

 「・・・青山先生は、別れたくなかったんじゃないのかな」

 大学の時と一緒だ。

 サヤ子が俺を苗字で呼ぶ時は、俺との間に壁を作ったという合図。

 「別れたくないのに、なんで別れ話するんだよ」

 俺の言葉に、瑠美が今にも泣きそうな顔をした。

  瑠美の事、大好きだった。なんでみんなの前で瑠美を振る様な事を言わなきゃならないんだよ。なんでまた傷つけなきゃいけないんだよ。