「・・・安田は私と出会わなくても良かった?? 私は出会えて嬉しかったよ。転職しなきゃ関わる事もなかったんだよね、うちら」

 「サヤ子センセこそ・・・」

 今度は安田が寂しそうな顔を見せた。

 「サヤ子センセこそ、そーゆー事は好きな男にだけ言っとけって。勘違いしたくなる」

 『サヤ子センセこそ』の内容はきっと、俺がいない時の2人だけの会話だ。

 俺の知らない話で、困った様に笑い合う2人を見て胸がざわついた。

  早く誤解を解かないと。

 「サヤ・・・「翔太、体温計る??」

 サヤ子に話しかけようとすると、瑠美が俺の近くに寄って来た。

 「体温計、薬箱の中に入ってるよ」

 「・・・薬箱、どこ??」

 今までどれだけ瑠美に甘えてきたのだろう。

 自分の家なのに、どこに何があるのか分からない。

  瑠美は少し笑ってキッチンの上の棚から薬箱を取り出した。

 ・・・キッチンて・・・。そりゃ、分かんないって。

 瑠美は俺に体温計を手渡すと『着替えとタオル持ってくる』と今度はクローゼットを開けた。

 「着替えはいいよ。自分で用意出来るから」

 「病人なんだから寝てた方がいいよ」

  瑠美は俺の制止をサラっとかわすと『ベッドに行って』と俺の背中を押した。

 その時、ポケットから何かが飛び出し、フローリングの上に転がった。