ピッ ピッ ピッ

規則的に、少し不愉快な高音の機械音が真っ白な箱の中にあるアイボリーのカーテンの中から聞こえる。

ベッドに横たわる男の手を握る、パイプ椅子に座っている女性の名は…【紗世】
そして、男は間違いなく【僕】だ。

飲酒運転のトラックが僕の車に突っ込んで来たのは記憶に新しい。

3日しか経っていないのだ。
いや、3日もなのだろうか。
だが何日経っても僕が目覚めることはない。

脳死

医者はそう告げた。
泣き崩れる家族と紗世の前で。

お気の毒です。
淡々とそう告げたのだ。

信じられなかった。
信じたくなかった。
したい事だってたくさんある。

まだ紗世と生きたい。

未練だらけだ。
だから僕は今霊体で紗世の隣に立ち、自分を見つめている。

霊体なら、紗世とずっといられる?
あぁ、でも君ホラーはダメだったね。
お化け屋敷でも僕の腕離さなかったよね。
あの時の紗世、可愛かったなぁ…。

想い出が走馬灯のように駆け巡る。
忙しなく鳴り出した機械音とバタバタと聞こえてくる足音。

「いや、いやだ…ずっと一緒にいてよっっ」

そうか。君はそう望むんだね?
じゃあ君が怖くないように、大空(そら)からずっと見守るよ。君が幸せになるまでは…僕が君の心に住まううちは、一緒にいるから……。

僕の心臓が止まるのと彼女の涙が溢れるのは同時だった。