そんな楽しい時間もあっという間に過ぎていき、ついに僕の家に到着してしまった。
なんだかまだバイバイしたくなくて、自宅をぼんやりと見上げながら立ち止まる。

「ここなんか? りんたの家」

「……ち、がう」

「いやでも鈴木って書いてあるで?」

痛いところを突かれて何も言えなくなる。
その代わりに隆くんの服の裾をきゅっと握り締めた。
それに隆くんは何か感じたらしく、背が低い僕に目線をあわせる。

「俺とバイバイしたないんか?」

その優しい声音に、こくりと頷く。

「そっか……でも大丈夫や。またすぐ会えるから」

その何の根拠もない言葉に顔を上げた。

「なんで…?」

そんなことがわかるの、と続けるつもりだった。
しかしそれは隆くんの台詞に遮られる。


「だって俺 隣やもん。家」


あっけらかんと言われた言葉に耳を疑いながら自宅の左隣のお宅を見ると、そこには"水瀬"の文字。

「ほんとに…?」

「ほんまやで」

「……っ やったぁぁあああ!!!」

「もうなんや急にぃ」

まだ幼かった僕が全身で喜びを表現する姿を、隆くんは照れくさそうに笑って見ていた。