「忍...」
ふいに名前を呼ばれてあたしは顔を上げた。
顔を上げてすぐに後悔した。
真っ黒な瞳を見るとあたしが映っていた。
男の手があたしの頬に触れた時、体中に
電気がはしったような感覚におちた。

動けない、逸らせない、逃げられない-...

段々と顔を近づけてくる男に対してあたしは決心を
固めるように深く瞼を閉じた。
もう、どうにでもなれ!!煮るなり、焼くなり、好きにしなさいよ!

「何目閉じてんの?変な顔-」
 
小馬鹿にしたような声が聞こえたと思いきや
両頬を思い切り引っ張られた。
あたしは目を開けては目をぱちくりさせた。
な、なんだったのよ、さっきのシリアスな雰囲気は...

「もしかしてホントにキスしてほしかったのか?」

「へっ?違いますよ!」

「ふ-ん、素直に認めればキスしてやんのに」

なんなのこの人、さっきから聞いてれば
偉そうに言いやがって...
駄目駄目、ここは落ち着くのよ、忍!
怒りを堪えるように体を震わせていれば

「つ-か、忍って胸ねぇな」

はぃ?今なんとおっしゃいました?
男の言葉があたしの頭の中でエコーする。
そしてなんでこの人の手があたしの胸の上に...?
はぁ、もう我慢の限界だ。