「ただ、藤壺は強く願ったんだ………。この国には、時の国にはそう簡単に来れない。後悔からくる少しぐらいの願いじゃこの国には来れない。……………藤壺には生前、愛した一人の男がいた。ただその男との恋は許されなかった。だけどどうしようもなかったんだろうな、二人は想い合った。………それはその時代の中では一番重い罪そのものだったんだよ。周りには知られなかったが、藤壺は生きている間ずっと自分の犯した罪を悔いていた。……だけど、想いだけは変わらなかったんだろうな。辛い生の中で、やっとその苦しみから解放される日が来たってのに、最後にまだ願うんだ……想うんだ、その男のことを…………」




蓮は一言一言をゆっくりと喋った。

言葉に詰まっても、乱暴な言葉でも、一言一言を丁寧に喋った。


藤壺は俯いて、じっと聞いていた。


ゆかりも黙って聞いていた。

その重苦しい話の中で口なんて挟めなかった。




「なんて馬鹿な奴なんだって思ったよ。あんなに苦しい思いをして、それでもまだその男のことを想うなんて………。ただ、その願いは強くて………綺麗だったんだ。それぞれが死の間際に願うことなんか自分の欲にまみれて、たいてい酷く醜い願いなんだ。……けど、藤壺の願いは違った。純粋に願っただけの綺麗なもんだった。………それで、なんとなく気になって、ここに連れてきた。見たくなったんだよな、近くで。その願いの先に何があるのか………。それから、もうずっとここで待ってんだよ、願いが叶うのを…」