「まぁ夢は夢だけど、ただの夢ってわけじゃないんだよ。………ところでそれ、気に入った?」
足を崩して壁に寄りかかった蓮が横から口を挟む。
蓮の紺碧の瞳がゆかりの桜色の浴衣姿を眺めた。
「…そういえば蓮、ずっと気になっていたんですがあのゆかりの単衣はどうしたんですか?」
藤壺も気が付いて不思議そうに首を傾げた。
「んー…まぁ最後の機会だからな、贈り物ってとこだ」
「素敵な桜色ね。蓮の女遊びも役に立つ時があるのねぇ……」
「………俺のことはどうでもいいだろ。ゆかりには桜色が似合うと思ったんだよ」
「あら、じゃあついでにこの櫛なんでどうかしら?」
「鼈甲の櫛か……いいな」
話はどんどんそれていき、履物もあげれば良かったのに…と藤壺が残念そうに呟いたところでようやくゆかりが声をかけたので話は止まった。
「あの!!………状況を説明してもらいたいんですが…………いいですか?」
「…あ、そうよね……ごめんなさい。じゃあ……蓮、説明してあげて下さい」
「まぁ、聞いたとこで信じねーとは思うけどな」
「……蓮、これがあなたの仕事でしょう」
藤壺が綺麗な笑顔を蓮に向ける。
その丁寧な言葉、綺麗な笑顔、の裏にはなぜか有無を言わさない強さを感じさせる。
そしてそれは、蓮には絶大な効果があるらしかった。