「もう起きています。蓮が騒がしかったので……」



蓮が立ち上がりかけた時、離れた場所からよく通る声が聞こえた。

いつの間に外にいたのか、灯りを手にしてこちらに来る女性にゆかりの目が吸い寄せられる。

蓮が頭をかきながら視線を移した。



「騒がしいって俺かよ…。いつも夜は滅多なことじゃ起きねーのに……よく起たな」

「いつもは寝たふりです。蓮がたまに傍に来ているのは知っています。短刀を握って寝ていることは忘れないで下さいね」




蓮は小さく舌打ちしてその人物を見た。

暗がりでよく見えないが、その人物はきっと柔らかい微笑を浮かべているはずだ。



柔らかい笑みと毒舌。

その人物、藤壺の性格を現すにはその二言に尽きる。

優しく穏やかな見た目に騙されるとその毒舌にやられる。


もっぱら毒舌の餌食になるのは蓮だけだが……。