猫の瞳がゆかりの目に止まった。
黒にごく近い濃い青色の瞳が、綺麗だと思った。
「どーも」
猫を撫でていたゆかりの手が止まった。
どこを見渡しても誰もいない。
声が聞こえてきた場所も、まぎれもなく猫のいる場所から。
ゆかりは目の前の猫をじっと見つめた。
「まさか、しゃべったの…?」
白い猫の姿は突然霧のように薄くなり、代わりに和服姿の若い男が現れた。
突然の出来事にゆかりは声も出せず固まったままだ。
「…そりゃしゃべるだろ、猫じゃねーからさ。やっと来たか。待ちくたびれたよ、ゆかり」
目の前の男は馴れ馴れしくそう言うと、ゆかりの手をとってその甲に口付けた。