ゆかりは桜並木の下で足を止めた。
また誰かに呼ばれたような気がしたのだ。
周りを見ても自分一人。
「うーん…やっぱりやばいかな……」
最近は妙に眠かったり、幻聴が聞こえたり、自分でも少し心配になる。
「春は危ないって言うよね」
そうさらりと怖いことを言った瑞穂の真剣な顔を思い出した。
2年前のあの春の日から、春にはここの桜並木をよく通るようになった。
見上げても桜色のアーチが覆っていて青空は少ししか見えない。
地面も花びらが敷き詰められている。
どこを見ても桜色一色のこの景色をゆかりは気に入っていた。
緩やかに散る桜の花びらをぼんやりと眺めた。
2年前と同じように、時間が経つのも忘れ、後ろから誰が来るのも気付かずに。