「今日は梅の香りね。この前は百合の香りだったわ」
「あー…まだ匂う?いちお消してきたつもりなんだけど」
「消さなくていいじゃない。素敵な香ね」
蓮の素行など意に関せずの様子の藤壺を見て蓮が顔をしかめた。
「やきもち…とかたまには妬いてみたらどうですか?」
「……誰相手に誰が?」
棘を含んだ言葉を呟きながらも、藤壺は微笑を崩さず蓮へと笑いかけた。
「結構人気あんだけどなぁ、俺」
「私は蓮に興味ありません」
「………相変わらずひでぇ。しかも笑顔で言うなって本気でへこむ」
一刀両断にされた蓮ががくりとうな垂れて、藤壺の背中に恨みがましい目線を送った。
藤壺は庭へと降りた。
履物も履かずに一面の緑の中をゆっくりと進んだ。
薄紫の袿を纏い緑の中を行く藤壺の後ろ姿は、気品があるがひどく儚げで、そして美しかった。