「……っ…痛ぇ」
男の端整な顔が痛みに歪んだ。
女はその様子を見て、悪びれもせずにさっさと手を引っ込めた。
男の頬には引っかかれた赤い痕。
眉目秀麗、その言葉に相応しい容貌の男にその傷は似合いすぎた。
「藤壺……今のはまるで男の浮気を嫉妬する女だぜ?仮にも生前帝の妃だった女がこんな事していいわけ?」
「似合うわよ、蓮。女遊びの勲章ね」
にこにこと笑顔を崩さない藤壺が問われた質問には答えずにさらりと言い放ち手鏡を寄越した。
「……ひでぇ。しばらく女のとこ行けねーじゃん」
端整な顔立ちは男をずいぶんと大人に見せていたが、ふくれっ面をした男はどこか幼く見えた。
この男、蓮は実のところ年齢はわからない。
藤壺に時の番人として付き添ってから、もう既に何千年という月日が経とうとしている。