「どこかで会ってたのかな…」

「誰とだ?」

「え、だからー……」



……あ。



「神崎、そんなに授業がつまらないか?」



黒板には数字の列。

ゆかりの机の横にはメタボとあだ名されている数学教師の田窪がいた。

前の席では咲が心配そうにゆかりを見ている。



「すみません…」

「付属大学に進めるからって油断してるなよ」

「はい…」



田窪が教壇に戻り教科書を進めはじめた。


後でまた咲に怒られるな…。

熱心にノートをとる咲の後ろ姿を見ながら思った。





今日に限ってやけに鮮明にあの春の日のことを思い出す。






…また今年も春が来たからなのかな。





4月の緩やかな気候を感じながらゆかりは小さくため息をついた。