その裏路地は一度も通ったことのない道で、偶然通りかかったゆかりは、あまりの綺麗さにぽかんと上を向いたまま桜の花びらを受け止めていた。



だから向こうから人が来ていることなど、すぐには気付けなかった。



アーチをくぐって行こうと歩き出して、はじめて向こうから人が来ることに気が付いた。




降り注ぐ桜の花びらに遮られてその人の姿ははっきりとはしなかったけれど、男だということはわかった。




近づいて来るうちになぜか緊張感を感じた。

一歩ごとに胸の鼓動は強くうった。

歩みが遅くなった。

引き返そうか…、たぶんそんな考えまで浮かんだはずだ。



風がいっそう強く吹いて、一瞬だけ桜吹雪が途切れた。



その瞬間、目があった。



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