「お兄ちゃん!おーきて」
「・・・・うん」
「こら!千華。お兄ちゃんは疲れてるんだぞ」
「お父さんには関係ないもん」
「あらあら。お父さんは千華に嫌われてるはね。ふふ」
「そ・・・そんなわけないだろ」
「ふふふ。千華、お兄ちゃんが自分からおきてくるまで待ちなさい」
「はーい」
「はよ・・・」
「やっと起きた~」
「ごめんごめん」
お兄ちゃんとあたしは喧嘩したことがない。
あたしが言ったらお兄ちゃんは笑ってごまかすからすぐ仲直りする。
「早く用意してね」
「分かった分かった」
この時お兄ちゃんを急かさず用意できるのを待っていたらどんなに良かっただろう。
少しでも1瞬でも時間がずれていたら未来は変わっていただろうか。
「おまたせ千華。さ、行こうか」
「やった」
「気をつけるのよ」
「千華、琳聖気をつけてな」
「は~い」
「じゃ行ってくるわ」
「お兄ちゃん!公園行こ」
「お前はあの公園が好きだなぁ」
「だーいすき」
「はは」
「この階段やだ」
「これのぼらねぇと行けねぇよ」
「だって850段あるんだよ?つかれるよ~。お兄ちゃん抱っこ」
「歴史的なお寺なんだから仕方ないだろ。我慢我慢」
「はーい」
「大丈夫か?あとちょっとだから頑張れ」
「はぁはぁ。だいじょぶ」
ずる。
「あっ」
「千華!危ない」
足を滑らして落ちそうになったあたしをお兄ちゃんは抱きかかえてそのまま転がり落ちた。その時覚えているのはお兄ちゃんの痛みを訴える声。とても聞いていられなかった。
つらそうに涙を流しながらお兄ちゃんはこう言った。
「今を生きろ」
それっきりお兄ちゃんは目を覚まさなかった。