「未練、なんてなかったけど…ちょっと、一緒に生きたいだなんて思っちゃった。
だけど…私は明日死ぬよ」

「……うん」

「だから、最期一緒にいてね」

「………うん」

「ねえ、明日さ。最初に言ったお願い、叶えてもらってもいい?」

「お願い?」

「うん、キスしたいってお願い」

「………うん」

「…よかった」

嬉しそうに、悲しそうに微笑む藤井さん。


その顔がまた苦しい。

俺の胸をチクチク何かが刺す。


痛い。
苦しい。



「帰ろっか」

「………うん」


立ち上がる藤井さんは笑顔で俺に手を差し出す。
俺もそれを取って立ち上がる。


駅までの道を俺達は無言で歩いた。
辺りはもう薄暗い。


藤井さんにはもう、時間がないのに。
気の利いた言葉一つ言えない自分がいた。


でも、彼女がどんな言葉を求めているのか。

それがわからなかった。