「……松下? お前何やってんだよ」


そんな私の願いが通じたのかなんなのか、聞こえてきたのは松下さんを呼ぶ声。
彼が一旦私から離れてくれて、つい安堵のため息が漏れる。

だけどちょっともったいなかった気も――……じゃなくて!


「あれ、風間。こんなところでどうしたの?」


「いや、これから集会はじめるから呼びに来たんだが、て、千秋?」


「え? あ、お兄ちゃん!?」


うつむいて悶々と考えていたので気づかなかったが、どうやら先ほどの声はお兄ちゃんだったらしい。

ちなみに私のお兄ちゃんは青沢高――お兄ちゃんや松下さんの高校の不良グループの№2。美咲ちゃんが「兄が兄だから~」と言っていたのはこういうことだ。
お兄ちゃんが不良って時点で、なんかもう世間体とかはどうでもいいというか。


「なんでお前松下と、ってあぁそうか、お前こいつに惚……」


「わーわーわー!!」


何やらとんでもないことを口にしそうな兄の口をバシっと両手で抑える。
何言ってるのという意味を込めて睨むと、お兄ちゃんはニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて私の手を引き剥がした。

うぅ、なんだか負けた気分だ。ちらりと松下さんを見ると、どうやら聞こえてないらしい。

良かった。この人が鈍感でほんと良かった。