いくら人外だとはいえ、狐姫はずば抜けた美貌だ。
 それに引き換え千之助はと見ると・・・・・・。

 背はもちろん小太よりはでかいが、もう二、三年したら変わらないか、もしかしたら追い越せるのではないかというほど。
 一般の大人からしたら、結構小さい。
 鍛え上げられた身体でもないし、銀鼠の着流しに懐手でふらふら歩く細っこい姿は、ちょっとした強風で呆気なく吹っ飛びそうなほど頼りなげだ。

 顔は人目を惹くほど整っているとも思えないし、不細工でも整ってもいないため、返って何の印象も残さない。
 十人並み、というのだろうか、と、小太はまじまじと千之助を眺める。

「ふん。男の価値は、そんな薄っぺらいもんじゃねぇのさ」

 少し歩を早める千之助を追いながら、小太は、素直に心の中で頷いた。
 男の価値、というものは、まだわからないが、少なくとも千之助に関しては、自分だって惹かれている。
 女子だけでなく、千之助はヒトそのものを惹きつける魅力があるのだ。

 いや、ヒトではないかもしれない、と、小太は足を止め、小さな千之助の背中を見つめる。
 ヒトというより、闇に住まうモノたち、この地に集う、昔ながらの妖たち---そういうものを、千之助は従える力を持つ者なのかもしれない。

「おいらも・・・・・・」

 呟くように、小太が言う。
 月を背に、千之助が振り返った。

「おいらも、ヒトより妖に近いのかな」

 下半身が蛇の牙呪丸を見ても、驚きはしたが、初めだけだ。
 妖幻堂のモノたちも、普通でないとわかっていた。

 普通のヒトなら、もっと怖がるのではないか。
 妖幻堂に近づくのすら、躊躇うのではないか。