「ガキだなぁ、お前は。まぁ今でこそ京の大籬(おおまがき)の太夫は、身体は売らねぇけど、狐姫太夫がいた頃は、そうでもなかったが。そのお陰で、狐姫に会えたわけだがな」

「旦那は、太夫の客だったの?」

「いいや。俺っちが狐姫に店で会ったのぁ、一回だけかな。あとは身請けの交渉に、楼主と一緒に会ったぐらいか。本来太夫ともなると、二人で会うまでに最低三回は通わねぇといかんのだがな、狐姫は、何せ妖の太夫だったもんでね。一回目も人数が少なかったのを幸い、目も合わさねぇ狐姫の耳に、小声でちょいと正体を暴いてやったのさ」

「一回しか会ってないのに、旦那は太夫を身請けしたんかい」

 ちょっと呆れたように、小太が目を見開く。
 いかな子供とはいえ、遊郭の太夫を身請けするとなれば、莫大な金が必要だということぐらいはわかる。

 そりゃあ最上級遊女である太夫というものは、一目でも拝めれば死んでも良いと言う者がいるほどの女子ではある。
 だが一回しか会ったことのない女子に、そんな莫大な金を払えるものか。

「旦那は、一目でそこまで太夫に惚れたってことなのか」

「へへ。ちょっと違うな。惚れたのぁ狐姫のほうさ」

 煙管を咥えたまま、千之助はしゃあしゃあと言う。

「・・・・・・太夫が、旦那に一目惚れしたの?」

「何だよ、その意外そうな顔は」

 じろりと睨む千之助の言うとおり、小太の顔には、ありありと『信じられない』と書いてある。