「およそ七百年・・・・・・。ふ、そう考えると、狐姫だって、出会って間もねぇな」

「え、そうなの?」

 意外そうに、小太が千之助を見る。
 小太からしたら、千之助の言葉の前半部分は、特に気にならない。

「ヒトの一生に照らし合わせれば、そうさな、普通の夫婦者ぐらいかな。ま、一番長ぇのは確かだが」

「・・・・・・旦那はさぁ」

 こつん、と足先の小石を蹴っ飛ばして、小太が言う。

「何で狐姫姐さんと、正式に所帯を持たねぇの?」

 小太ぐらいの恋愛初心者からしたら、好いた者と一緒になるというのは、憧れなのだ。
 狐姫がずっと千之助の傍にあるのは、長く妖幻堂に出入りしている小太なら知っているし、狐姫が千之助を慕っているのも知っている。

 若い小太からしたら、大人な二人がそれだけの期間一緒にい、しかもすでに一緒に暮らしているなら、祝言を挙げていないというののほうが、わからない。

「旦那は、狐姫姐さんが好きじゃねぇの? 太夫だから?」

「お? 何だ、それ?」

「だって・・・・・・太夫ってことは、遊郭にいたってことじゃないか。遊郭って、いろんな男の相手をするんだろ」

 言いにくそうに、小太が言う。
 千之助は、そんな小太に、ふっと紫煙を吐きかけた。
 げほんと小太が噎せる。