「お前は唯一、俺らの正体を知っても普通に接することのできる人間だ。これほど将来が楽しみな小僧もいねぇぜ」

 必死で声を殺しながら、小太は千之助の隣でしゃくり上げる。

 本当のところは、正体をはっきり見たのは牙呪丸だけで、狐姫や千之助のことは知らないだろう。
 だが本人に聞くまでもなく、小太はおそらく気づいている。

 中でも千之助は特殊なので、言われなければ、はっきりとはわからないだろうが、それでもそういうモノとわかった上で、特に他の人間と変わらず接してくる。
 恐れるわけでもなく、敬うわけでもない。

 その自然な態度が、千之助を安心させる。

「お前もまだ十二だ。何事も、これからさ。お前がそれなりの大人になったら、そうさな、妖幻堂を任せたっていいぜ。お前さんは、それだけの器量があるよ。始末屋を仕切るにゃ、ちょいとお人好しすぎるかもしれねぇけどな」

「な、何言ってんだよ・・・・・・。旦那だって、まだまだ若いじゃん」

 えぐ、としゃくり上げながら、小太が言う。
 千之助は、へ、と笑って煙管を吹かせた。

 一体あれから、どれほどの時間(とき)が流れたのか。
 この小さな国で、幾度も戦が起き、都度血の雨が降って・・・・・・。

 千之助は、空を見上げた。

「・・・・・・月は、変わらねぇなぁ」

 薄闇に浮かぶ月は、遠く伊豆の地で果てたあの頃と、何ら変わらない。