「小太。そんなところに突っ立ってねぇで、入るなりすればどうだ? お前、仕事終わったんなら、飯食って行くか?」

 佐吉を座らせた千之助が、いまだ土間に突っ立ったままの小太に声をかける。
 やっと小太は我に返り、しかし怪しく視線を彷徨わせた。
 ふと佐吉が、思い出したように小太を見た。

「あ、あんたが清を逃がしてくれた、あの店のお人かい」

「え? 清?」

 疑問符の浮かんだ顔のまま、小太は戸惑いながら佐吉を見る。

「そう。小太さんて言うのよ。佐吉さんがあいつらの相手をしてる間に、小太さんが裏路地に引っ張ってくれたの」

 にこやかに、小菊が小太を紹介する。

「そうか。清をここに連れてきてくれたのも、あんたってことだな。有り難うよ」

 にこ、と佐吉が小太に笑いかける。
 自分のものを守ってもらった、という感じに、小菊は少し赤くなり、小太は再び打たれたように固まった。

「ふぅん? 小菊は佐吉と一緒になるって決めたんかい」

 顎を撫でながら言う千之助に、小菊は照れながら、はい、と答えた。

「そうか。そうさな、それがいい。そいつなら、多少のことでは、びくともせんさ」

 そう言って、千之助は小太の頭をがしっと掴んだ。
 ぐいっと顔を近づける。

「つーこった。残念だが、諦めろ。どっちにしろ遊女に惚れるなんざ、十年早ぇぜ。お前にゃこれから、もっともっと良い女が現れらぁな」