「あ、大丈夫ですよ。姐さんにもお世話になってるし、稲荷ぐらい、任せてください」

 慌てて小菊が取り繕う。

「はは。じゃあ小菊、頼んだぜ。それと食材買ってきたからよ、悪ぃが飯の支度を頼めるかい。お前さんも、ちゃんと食わねぇといかんし、あいつもそろそろ食えるだろ」

 ひょいと奥を指差す千之助に、小菊は元気良く頷いた。
 どうやら佐吉とは、良い方向に話がまとまったらしい。

「じゃ、腕を振るって夕餉の支度をしますね」

 嬉しそうに、小菊は食材を抱えて奥の炊事場に走っていく。
 ぽかんと見送る小太の視線が、その隣の部屋に移った。
 そこに敷かれた布団の上に、上体を起こした男と目が合う。

「だ、旦那。あの人は・・・・・・?」

 ちょっと気圧された小太が、傍らの千之助の袖を引く。

「小菊の恋人さね。迎えに来たのさ」

 軽く言い、座敷に上がる千之助を、小太は茫然と見つめた。

「おぅ、すっかり目ぇ覚めたようだな。どんな調子だ? 腹ぁ減ってるかい?」

「ああ。お陰さんで、すっかりだ。あんまり寝てばっかいたら、足が弱っちまう」

 千之助の肩を借り、佐吉は立ち上がって手前の座敷に出てきた。
 夕餉の支度をする小菊を、少し眼を細めて見る。
 長火鉢の前では狐姫が、少し面白そうに小太の様子を窺っている。